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人のデータを勝手に使うな!データ経済社会は自己管理が原則に

「データ経済」へ 情報を保護しつつ上手に共有することで社会は豊かになる PeopleImages-iStock

コラム
2015.9.16

 ビッグデータの時代。ICカードで電車に乗ったことはデータとして記録される。そしてその記録をマーケティング情報として鉄道会社が別の企業に販売する。「自分の乗降データが、自分の知らない使われ方をする。そして自分のデータで鉄道会社が儲けている。なんか違和感を感じるんです」とビッグデータ系ベンチャー企業EverySense,Incの真野浩氏は言う。

 20世紀は金融が社会の「血液」だった。21世紀はデータが社会の「血液」になると言われている。データが共有、流通されれば、ビジネスの効率化が進み、社会が豊かになることは分かる。だからといってユーザーの知らないところでユーザーデータが勝手に使われていいものだろうか。

「たとえ捨てたものでも、ゴミ箱の中を勝手にのぞくのはプライバシーの侵害に当たります。それと同じことで、ユーザーが生成したデータを事業者が勝手に売買するのっておかしいと思うんです」と真野氏は主張する。

 そこでデータの持ち主が自分の意思でデータを提供し、データを利用したい人とマッチングする。そんな仕組みを作ろうというのがEverySenseだ。

 データを共有し合う社会って、どんな形になるのだろうか。その未来の1つのシナリオの可能性が、EverySenseの仕組みの中にあると思う。そういう意味で、EverySenseの仕組みを詳しく見てみたい。

データの提供者と利用者を結ぶ「築地の競り人」

 EverySenseの仕組みは次のような感じだ。EverySenseは、データの提供者を「ファームオーナー(農場主)」と呼ぶ。ファームオーナーは、自分のデータをどのような条件なら提供していいのかを登録する。一方でデータ利用者は「レストランオーナー」と呼ばれる。レストランオーナーは、どのようなデータを探していて、そのデータをどのように利用するのかを登録する。そしてファームオーナーとレストランオーナーの条件がマッチすれば、データの受け渡しが行われる。「われわれ自身がデータを集めたり買ったりしません。あくまでも中立。築地の競り人に徹します」と真野氏は言う。

 データは、ウエアラブルデバイスから生成されるものから、工場内のセンサーから生成されるものまで、多種多様な形式で存在する。それを共通の形式に揃えるのもEverySenseの役割だ。「IoTのデータをすべて標準化しようという話があります。でもセンサーデバイスの数が無数にあるので、絶対に無理。なので、われわれのような会社が中に入ってデータを整える必要があるんです」と真野氏は主張する。

 また同社はデータのメタ化も行う。「自分の店舗の周辺の人の流れをつかみたいという人でも、すべての人の正確な緯度経度を知りたいわけではありません。最寄り駅の人の流れがどうなっているのか、主な顧客層である20代の女性が最も多く近くの通りにくるのは何時ごろなのか。そういうレベルの情報が分かればいいだけ。そうしたレベルにデータを変換することで、プライバシーの問題も回避できる。そういう作業をメタ化、抽象化と呼んでいます」(真野氏)。

 情報の提供者、利用者ともに虚偽の登録がないか。先方は提供者、利用者としてどれくらい評判がいいのか。取り引きにはそういった情報も重要になる。そこでEverySenseでは、ソーシャルメディアでよく見かけるような口コミやレビューの仕組みも提供するのだという。

環境センサーデバイスを開発

 ファームオーナーとしてデータを提供する方法は主に4つあるという。

「1つは、デバイスが直接ネットにつながるもの。例えばウエアラブル機器なんかがそうですよね。そうしたセンサーデバイスから直接インターネット経由で提供してもらってもいい。2つ目は、スマートフォンや携帯電話のデータ。アプリなどを通じてデータを提供してもらう方法です。スマホ自体がセンサーになってますよね。歩数計とか、加速度センサーとかが搭載されています。そうしたデータを提供することができます。3つ目は事業者が持っているデータ。例えば工場や農園など、産業界ではいろんなデータを取っています。その情報を提供してもらってもいいわけです。4つ目は、自動車もそうですし、ヘルスケア系デバイスもそうですが、データがその事業者のクラウドに蓄積されるようになっている場合があります。fitbitなどの活動量計もそうですよね。このクラウド上にあるデータを、ユーザーの許諾のもとにシングルサインオンで取ってこれるようになっているのであれば、ユーザーはそれを提供することもできます」。

 またEverySenseでは、データ取り引きの仕組みだけではなく、データを提供するためのデバイスの開発にも力を入れていくという。「僕はもともと物作りの人間ですから」と真野氏が言う通り、同氏はエンジニアとしての輝かしい経歴を持っている。同氏は、1996年に世界で最初にワイヤレスIPルーターの開発に成功した Root, Inc.の創設者であり、移動IPとIPv6技術を取り入れた最初の公共Wi-LANキャリヤー会社であるモバイル・インターネット・サービス の創始者でもある。現在もIEEE 802.11 TGai のチェアを勤めている。無線LANの標準化のグループで議長を務める日本人は、真野氏が初めてだという。

 EverySenseが手がけるデバイスの1つが、自由にセンサーの追加や組み換えが可能な汎用小型環境センサーのEveryStampだ。温度や、湿度、気圧、加速度、GPSなど、さまざまなセンサーを自由に組み合わせることができる小型センサーデバイスで、こうしたセンサーデータを必要とする「レストランオーナー」との間で取り引きが成立すれば、EveryStampを机の上に置いているだけで、ちょっとした小遣い稼ぎになる。

EveryStamp Video 

 EverySenseは、8月25日から日本のクラウドファンディングサービスMakuakeを通じてEveryStampの資金調達プロジェクトを始めている。このあと米国のクラウドファンディングKickstarterなどでも同様のプロジェクトを展開する考えという。

 EveryStamp以外にも、加速度、音質、気圧などのデータを取得できるウエアラブルデバイスEveryStickの開発も進めているという。

抗えない時代の流れ

 EverySenseの動きに期待する研究者がいる。東京大学の橋田浩一教授だ。同教授は、データを消費者自身が管理するという概念である分散型パーソナルデータストア(PDS)の研究の日本での第一人者だ。

「企業が集めた消費者のデータを別の企業に提供しようとするから話がややこしくなります。消費者自身が本人同意のもとに提供すればいいんです」と同教授は指摘する。「消費者が生成したデータは、消費者自身が持つべきだという考え方は以前からありました。ただようやく最近になって、技術的にそれが可能になってきたんです」。

「ビッグデータといっても自社のデータを解析しても分かることは限られています。企業が本当に欲しいのは、自社にないデータなんです」。しかしデータ漏えいやプライバシー侵害の問題があって、企業間で消費者データの流通はなかなか進まなかった。ところが消費者側でもデータを管理し、消費者の同意のもとでデータが流通するのであれば、何の問題もない。

 まさしくEverySenseが手がけようとしている仕組みは、PDSの1つの形になる。あとはこうした仕組みが可能だということが社会に認知されればいいだけ。「新聞などでPDSが普通に取り上げられるようになれば、その手があったかということで、データのやり取りに乗り出す企業が次々と出てくると思います。そうなれば、あとはドミノ倒し。一気に普及すると思います」。

 EverySenseのような個人が自分のデータを管理する仕組みが普及し、あらゆるデータが自由に活用できるようになれば「いろんな人がいろんなビジネスを思いつくと思います」と同教授は言う。「効率的市場仮説や完全情報市場に近い状態ができてしまうと思う。日本の国力がすごく強くなると思いますよ」。

 真野氏も「個人が自分のデータを管理するのは時代の流れ。その流れには抗えないと思います」と語っている。

米国から狙う世界

 ところでEverySenseは、米国シリコンバレーに本社を置く米国法人だ。社長の真野氏は日本人だし、株主はインフォコム株式会社など日本企業が名を連ねている。世界的なインフラになることを目指して米国で設立したのだという。

「個人向けのオシャレなウエアラブルデバイスって日本であまりはやっていないので、ウエアラブルデバイスからデータを集める業務は主にアメリカでやろうと思っています。日本では農地のデータとか、産業界のデータを集めるところに注力しようと考えています。そしてそれをアジアでさらに発展させるつもりです」と真野氏は語ってくれた。

Newsweek日本版より転載
http://www.newsweekjapan.jp/


Editor's Profile

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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