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AIが招く雇用崩壊にはこう対処すべき。井上智洋著「人工知能と経済の未来」【書評】

PhonlamaiPhoto-iStock

コラム
2016.7.21

<AIの進化による雇用の消滅は否定しようもなく近づいている。経済学者の立場からこの問題に取り組む著者は納得の解決策を提唱する>

 人工知能(AI)が急速に進化し始めたことに気づいたのがちょうど2年前。急いで主なAI研究者を取材して回ったが、AIの研究者たちはみな「雇用が順番に消滅していく」という未来予測を口にした。しかもその時期は、2030年から2045年。もうすぐそこまで来ている未来だ。

 経済はどうなるんだろう。社会制度はどうなるんだろう。当然のことながらAIの研究者たちは、そうした問いに対する明確な答えを持っていなかった。

 経済学者でこの問題に取り組んでいる人はいないのだろうか。周りの人たちに聞いて回ったが、そんな経済学者を知っている人は一人もいなかった。たまたま高校時代の親友が大学で経済学を教えているので彼にも聞いた。「そんな話、聞いたこともない」というのが彼の返事だった。

 経済学がこの問題に取り組んでいない。衝撃だった。

【参考記事】AI時代到来「それでも仕事はなくならない」…んなわけねーだろ

 しかしある意味、当然かも知れなかった。経済学は希少性の学問だと言われる。資源や富の量には限度がある。限られた資源や富をどう分配するのか。それを研究するのが経済学だと言われる。

 しかしこれから我々が迎えようとするのは過剰性の社会。AIとロボットが人間に代わって富を生み出すようになるので、物が有り余るようになる社会だ。前提が、希少性から過剰性へと180度変わるのだから、経済学が対応できていないのも無理もない話だった。

 でもだれかがしっかりと考えないといけない。大変化は、すぐそこに迫っているのだから。

AI対策としてのベーシックインカム

 そんなとき取材先のAIの研究者から「早稲田の井上先生という若い経済学の先生が研究しているらしい」という情報を聞きつけた。急いで、当時、早稲田大学の助教だった井上智洋氏を訪ねた。

 井上氏の主張は明確だった。「AIが人間並みの知性を持てば仕事がなくなる。なのでこれからの社会保障としてBI(ベーシックインカム)を導入すべきだ」というものだ。

 AIの変化に対応するためにBIを導入する。こういう主張は、それまで日本国内でも聞いたことがなかった。世界的に見ても井上氏が最初の提唱者の一人であったのではないかと思う。

 賃金を受け取ることのできる仕事が次々と消滅していくようになるのだから、貨幣の流通量が減り、経済が縮小する恐れがある。遠い未来には、貨幣が流通しなくなり、資本主義が自然死するだろう。そうなっても、ボタン1つで欲しいものが手に入るテクノロジーがあるのであれば、それはそれで楽園かもしれない。

 ただそこにいく過程では、人工知能を使いこなすことで巨額の富を得る富裕層と、仕事がなくなる貧困層との間の格差は広がる一方だ。究極の未来はユートピアであっても、そこに至るまでにディストピアが待ち受けているわけだ。そのディストピアの中で人々の苦しみを少しでも軽減するための政策として、国民一人ひとりに最低の生活ができる「手当」のようなものを配布する。それがベーシックインカムの考え方だ。「子供手当」に加えて「大人手当」を配布するようなイメージだ。井上氏によると、その財源の確保も問題ではないという。

僕が探し求めていた問いに対する明確な解答だった。

 井上氏はその後、各方面でひっぱりダコになり、多くのAI研究者とも親交を深めていった。そうした親交を通じて、井上氏は、AIとその可能性に関連する情報をどんどん蓄積していった。AIが引き起こす雇用崩壊について、経済学者としては井上氏が最も多くの情報を持っているのではないかと思う。

 その井上氏がその情報を惜しみなく一冊の本にまとめた。『人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊』 (文春新書 1091)というタイトルの本だ。帯には「人工知能に仕事を奪われ、職に就けるのはたった一割」というショッキングな一文が載っている。

「10年後に多くの仕事がなくなる」という論調は、最近よく見かけるようになった。しかし、そうした急速な変化にどう対応すべきかという議論は、まだほとんどされていない。

 時間はあまり残されていない。この急速な変化に、そろそろ本気で対応策を考えたい。そう考える人には最適の一冊になっている。

Newsweek日本版より転載
http://www.newsweekjapan.jp/


Editor's Profile

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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