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ロボット x AIの領域がブルーオーシャンである理由

iStock:imaginima

コラム
2019.6.20

ロボット x AIの領域は、これから最も大きな可能性を秘めている領域、ブルーオーシャンだと言われる。ブルーオーシャンとは、血で血を洗う過当競争のレッドオーシャンの逆で、今後大きな成長が期待されるのに競合他社がほとんどいないビジネス領域のことだ。

 

早稲田大学の尾形哲也教授によると、ロボット産業はAIを搭載することで、安価で汎用性のあるロボットを開発できる可能性があるという。安価で汎用性のあるロボットは、今はまだ存在しない巨大な市場を作り上げるかもしれない。

 

一方で同教授は、ロボットとAIの両方の領域を十分に理解している人材が極めて少ないと指摘する。つまり両方の領域のスキルを身につけた人材をいち早く確保できれば、巨大な市場を手中に収めることが可能というわけだ。

 

▼AIが可能にする安価で汎用性の高いロボット

 

現在主流の産業用ロボットは、いわば専用機だ。特定の作業が完璧にできるようにハード、ソフトともに開発されている。高性能ではあるが、高価でもある。高性能で高価な専用機ロボットは、同じ製品を大量に生産する大手の工場であれば導入しても十分にペイするが、少量多種の作業をこなさなければならない中小の工場では高くて手が出ないのが現状だ。

 

ところがAIを導入することで、エンジニアがロボットの制御プログラムの開発に大量の労力と時間をかけなくても、AI搭載ロボットにお手本となる動きを少し教えるだけで、各種作業を自分で学習できるようになってきている。

 

事実、尾形教授が研究機関や複数の企業と共同開発したロボットは、まずタオルを折りたためるようになった。その後、サラダの盛り付けができるようになり、今では粉や液体の薬品を計量できるようになった。1つのAIがいろいろな作業を学習しはじめているわけだ。(関連記事 マルチモーダルAIロボットは匠の技を再現できるか インターフェックス大阪で見た世界最先端

 

1つ1つの作業をプログラミングで制御しなくて済むので、プログラム開発コストが大幅に削減される。その上、専用機ロボットを何台も購入しなくていい。AIの進化を受けて、安価で汎用性の高いロボットがこれから数多く登場することになるとみられている。

 

安価で汎用性の高いロボットはまず、中小企業の工場に導入されるだろう。レストランなどのサービス業の店舗内にも配置されるかもしれない。将来は、一般家庭にも入っていくかもしれない。将来の市場規模を推計できないほど、その可能性は無限だ。

 

▼ロボット、AIの研究者間に交流なし

 

ところが尾形教授によると、ロボットとAIの両方の技術を理解する人材が非常に少ないという。

 

「AIは大学の情報や通信の学部で教えられる。数学的には確率・統計に基づくモデリングが基盤になる.一方で、ロボットは大学の機械、電気の学部で教えられる。数学的には物理モデルを扱うための、微分方程式、線形代数が基盤になる.学問的には世界を異なった視点で扱っているのです」と言う。

 

研究者同士の交流も活発とは言い切れない。例えば今年の人工知能学会は2500名以上の規模で6月4日から7日の日程で新潟で開催され、日本機械学会のロボティクス・メカトロニクス講演会が2100名を超える規模で,6月5日から8日に広島で開催された。「僕は両方の学会に所属しているんですが、両方に参加することは不可能でした」と尾形教授は笑う。双方とも相互交流をほとんど意識していない。それぐらい双方の学問の間に大きな溝があることが分かる。

 

しかし人材がいないということはチャンスでもある。いち早く両方の領域を学んだ人材が、重要になってくる。

 

▼ロボット大国日本の地位が揺らぎ始めた

 

チャンスはあるわけだが、といって日本のロボット産業が安泰だというわけではない。

 

AIがロボット工学の新たな領域を拓こうとしている中で、論文数で日本の相対的地位が低下し始めた。(関連記事 日本はもはやロボット大国ではない!?論文数で7位に転落

 

世界のロボット工学の研究テーマが機械学習、特にディープラーニングに移行する中で、日本の強さは今だにハードウェアの部分だという。

 

「AIを搭載しなくても、日本のロボットは高性能。それはすばらしいことなんですが、そのおかげでAIの研究が他の先進国より遅れているかもしれません」(尾形教授)。

 

ハード部分の技術は世界最先端。追随を許さない状態だ。なので顧客企業は、高価でもロボットを買ってくれる。AIを搭載すれば安価なロボットを開発できるかもしれないが、その性能は現状では、今の日本のロボットを超えられない。

 

高性能、高額ロボットで成功している日本メーカーが、「安かろう悪かろう」のロボットの領域では新興国メーカーをライバルとして戦わなければならない。得意領域を離れて、そんな領域に入っていくインセンティブはない。理にかなった判断だ。

 

▼「安かろう、まあよかろう」の市場規模は?

 

問題は、AI搭載ロボットがいつまでも「安かろう、悪かろう」の状態にいるのかどうかだ。もし「安かろう、悪かろう」の状態から「安かろう、まあよかろう」のレベルに到達すれば、顧客企業はそちらに鞍替えするかもしれない。さらにロボットがAIで汎用性を持つようになれば、今までにない市場が目の前に急に広がる可能性だってある。

 

ロボット業界の現状は、スマートフォンが登場したころと少し似ているかもしれない。iPhoneが日本で発売された際に「思ったほど脅威ではない」という日本メーカーの幹部の意見をよく耳にしたものだ。

 

スマホは、携帯電話だが音楽も楽しめる。ところが発売当初、音楽プレーヤーの専用機と比べると、音質などの性能は大きく劣った。カメラもそうだ。カメラメーカーからすれば、スマホのカメラはおもちゃのようなもの。カメラメーカーの市場シェアを脅かすようなレベルではなかった。

 

音楽プレーヤーやカメラなどの専用機に比べれば、スマホの性能はいまだに限定的かもしれない。しかし「まあよかろう」のレベルに達しているのは間違いない。しかもスマホでは、そのほかにもいろいろな機能が搭載されている。そのおかげでスマホは売れに売れ、その市場規模は、幾つかの専用機市場を合わせてものよりも大きなものになっている。

 

日本の専用機メーカーがたかをくくって様子見している間に、スマホ市場は海外メーカーの間で領地分配が行われた。ハードウエアでは韓国、中国メーカーが大躍進し、ソフトウエアではGoogle、ハード、ソフト一体型ではAppleが圧倒的な強さと影響力を手にした。

 

安価で汎用性の高いロボットの市場はどの程度の規模になるのだろうか。今はまだ全貌がつかめないが、急成長する可能性は否定できない。新たに誕生する市場で、圧倒的な強さと影響力を手にするのは誰になるのだろうか。

 

 

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Editor's Profile

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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