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介護ケアの本質であるコミュニケーションは、自動化できるのか。

インタビュー
2017.12.29

<サービス開発におけるドメイン知識の重要性>

地元の団地を歩き、予防の領域にニーズはあると確信

「傾聴とコミュニケーションスキルの訓練を受けたオペレーターが、独居などのシニア中心を話を聞くサービスを展開しています。」こう話すのは株式会社こころみの代表取締役 神山さんだ。

こころみ代表の神山さん

(神山さん)「このビジネスを始めたキッカケは、学生の時に不登校になり孤独について考えたこと、そして、長野に残っている両親と自分とのコミュニケーション不足について考えていたことです。」

「両親はもうすぐ80歳で、身体はまだ元気なんですが、離れているので細かい暮らしぶりというのは分かりません。いざ自分が電話をしてみると、普段話をしていないので上手に話題が転がらないし、向こうから電話がかかってくるときには、仕事中のことが多く用件を手短にって思ってしまうんですよね。」

「起業する前に、高齢者の多く住む団地に行って、散歩している高齢者に声をかけてみました。そうすると、会話を断る人はいなかったんです。こちらの話を聞くだけでなく、話題に乗ってきて、こちらが断らないと終わらないという状況もありました。ビジネスになると直感しました。」

起業する前に実地調査した団地

QOLを維持すれば自分も介護現場もハッピーになる。

日本では他の国では類を見ない国民皆保険制度により、世界最高レベルの平均寿命と保健医療水準を維持している。しかし、現在の日本は超高齢社会となり出生率は1.4人程度の水準で推移し、2010(平成22)年の国勢調査において1億2,806万人であった日本の総人口は、長期的な減少過程に入ると予測されている。

厚生労働白書によると、人口は減り続け2048年には9913万人、2060年には8674万人と、およそ現在の1/3になる推計だ。数にするとおよそ4000万人の人間がいなくなるのだ。このような規模の人口減少の局面を迎える国は先進国の中でも日本が最初で、どこの先進国も経験のしたことがないゾーンに突入する。数ある産業の中でも、圧倒的に労働者が足りないと言われているのが介護現場だ。2000年の介護保険施行時には、55万人だった介護職員は、現在では約150万人となり、団塊世代が後期高齢者になる2025年には237~249万人の従事者が必要と予測されている。(厚生労働省)

介護にはそもそもの財源の問題がある。今後の人口動態を考えれば、介護しなければいけない人数は増えながらも、支払う人が減るという構造になっている。予防の領域をやろうとしている介護事業者はまだまだ少なく、介護保険の枠組みの中でしかサービスを展開しない事業所も多い。保険でできることは減っていくと捉えて、予防やQOL維持は自分自身で気づいて行動していくべきだろう。

傾聴スキルが予防につながった事例とは

(神山さん)「大切にしているのは傾聴スキルです。正しく傾聴することで、会話が弾むんです。自分のことを知ってもらえる人ができると、それが自己肯定につながっていきます。自己肯定感という人間が持つ根源的欲求を満たすことで、生きる力、他人に役に立ちたいという気持ちに繋がっていくのです。これは要介護状態になるのを防ぐ、自立した生活を長く続けるために重要なことなんです。」

「一つ事例をご紹介します。右半身麻痺がある方で、サービス当初は身体の痛みや生活の愚痴がほとんどでした。次第にオペレーターとの会話に慣れていくと、会話の内容に変化が見られ、昔の仕事、政治評論、そして近くの花屋の店員をさそって焼肉食べに行ったという話にまで発展しました。第三者との定期的な会話は、日常生活の活性化を促す例に該当すると思います。また外出することによって歩行力の維持にも繋がった事例でした。」

妻の介護が終わり、男性がひとり身になると、急な喪失感に襲われて、ろくな料理もせずに痩せ介護状態になっていく。筆者が地域包括ケアセンターなどを取材していると、このような話をよく聞く。財源が厳しくなり、介護保険の自己負担が1割から2割になり、要支援も打ち切られる方向だ。日本の社会保障の財源不足はまったなしだが、神山さんのサービスは要介護状態になるのを防ぐ、QOLを維持するサービスと言ってもいいだろう。

オペレーターの記録したテキストを分析すると。。。

取材時に、実際のオペレーション業務を見せてもらった。ヘッドマイクをつけて、会話を記録しながら傾聴している

(神山さん)「こころみでは、傾聴コミュニケーターが取材を担当して、話者の自分史を作るサービスも提供しています。安否確認の延長線上にあるものです。現在、そのテキストデータの分析を進めています。まだ解析途中なのですが、面白いことに年代ごとに幸せや楽しいなどの言葉に紐づくワードに変化があることが分かってきました。60代70代までは、自分の過去の話、仕事や趣味など、自己実現欲求のキーワードが見てとれるのですが、80代になってくると、まず息子や孫など下の世代の家族のキーワードが増え、次第に両親や夫や妻に関するキーワードも増加してくるのです。あと面白いのはお金を儲けた話っていうのは全体的に少ないことですね。いまさらに解析を進めているところです。」

自分史を作るサービス 親の雑誌

テキストマイニングの結果の一部を見せてもらった ©こころみ

こころみでは、分析レポートの結果をオペレーターの研修でフィードバックしているという。今後は音声データの解析も視野にしているらしく、機械学習系のAPIサービスなどもリサーチしているという。

現在、コールセンターとAIを使ったチャットボットの連携が進んでいる。最近ではコールセンターではなくコンタクトセンターと呼ぶ場合も多い。現場の方に話を聞くと、コールは全然減らず、チャットだけ増えているところも多いようだ。置き換わるというよりも追加的な手段としてチャットが使われている。いまはデータ収集の時期なのかもしれない。

UIとコンテンツ設計が、カギになる。

株式会社こころみは2017年8月より,株式会社NTTドコモが提供する「コミュニケーションパートナー ここくま」の会話シナリオの作成支援を行っている。「ここくま」は、離れて暮らす家族と音声メッセージで連絡が取れ,人感センサーの反応で天気や 季節の話題などを話しかけるクマのぬいぐるみ型コミュニケーションロボットだ。神山さんは、キャラクター設計とシナリオの構築に関わっている。

こころみでのサービスのノウハウが生かされたコンサルティングだ。機械学習の精度が高まっていく中で、どのように現場に活かすのか、コンテンツ化するのか、ドメイン知識と呼ばれるところが非常に重要になってくる事例だ。

現在はオペレーターが行っている傾聴が次第にAIに置き換わるのは何が必要か、それは人間味なんだろう。見た目はクマだったり、アザラシだったり、ペッパーだったりする。今後は仏像のようなものがでてくるかもしれない。間に何かのキャラクターが入ることで、会話が生まれて、情報交換ができる。今後のUIと自然言語処理に期待が高まる。

電話でのコミュニケーションで、人生の楽しさが変わる。 kchungtw-iStock


Editor's Profile

ヘルスバンク株式会社 代表取締役 / 編集者・ジャーナリスト/神保町サロン主催/TheWave|湯川塾事務局
大学卒業後、医療系出版社入社。2010年に独立し、ヘルスバンク株式会社を設立。医学系論文調査、サイエンスライティング、メディカルイラストレーション、生物統計解析など医学分野におけるサービスを主に展開している。社会保障制度(診療報酬や介護報酬)や臨床現場の取材も多数行っています。執筆・情報提供媒体は、医薬業界紙、一般紙など。2016年から神保町サロンを主催し、テクノロジー、哲学や東洋思想などをテーマにサロンやイベントを行っている。

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