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「AIが世界を変えるこのタイミングに、小さくまとまりたくない」自然体の経営者、春田真氏

インタビュー
2018.1.30

「30代の若い経営者でも、成功した人の何割かは目が死んでますよ」。友人の経営者がそんな話をしていた。経営者だけが参加できるコミュニティに新しく参加したそうなのだが、驚いたことに参加している多くの経営者からは、覇気が全く感じられないのだそうだ。IPOして巨額の富を手にし、所得としても年間数千万円は何もしなくても入るようにしている人たち。一見幸せそうに思えるそんな人たちだが、実は幸せではない。

アジアに移住した別の経営者の友人も同じようなことを言っていた。「シンガポールには、お金儲けに成功した日本人がたくさん移住してきているのですが、幸せそうな人はあまりいません。多くの人は自分の資産が目減りしないか、びくびくしながら過ごしています」。

一度成功した人の多くは目標を失い、守りに入る。まだ成功していない者からすればうかがいしれない世界だが、実は成功者の心理は複雑なようだ。

その一方で、一度成功したあとも挑戦し続ける人がいる。エクサウィザーズの春田真氏もその一人だ。春田氏は銀行員として社会人生活のスタートを切ったあと、DeNAに参画。球団を買収できるほどの大企業に、DeNAを育て上げた。いわゆる成功者の一人だ。

その彼が独立し、新しい挑戦を続けている。何が春田氏を駆り立てているのか。

独立以来、春田氏とは月に一度のペースで情報交換してきたが、その辺りの話をじっくり聞いたことがなかった。今回、その辺りの話を聞いてみたのだが、何かに駆り立てられている様子は微塵もなかった。春田氏は、どこまでも自然体だった。

春田真

ーーこれまで聞いたことがなかったんですが、どうしてDeNAを辞めたんですか?

春田 DeNAでも一定の成果を挙げることはできたんだけど、気がつくと現場から少し遠い地位になってしまったんです。もう一度、現場で新しいことがしたい。そういう思いからですね。DeNAにも長く、15年半もいましたし。

ーー具体的には何をしたいんですか?

春田 世の中に役立つこと(笑)。僕には娘がいるんですが、娘が将来「お父さんの会社に入りたい」というような会社を作りたいって思いました。「世界を変えたい!」というような強い思いで始めた訳ではないです。

ーー世界を変えたいという思いがないんですか(笑)。でも確かに、僕が会った経営者のほとんどは、自分の力でどこまで事業を拡大できるのかを試している人です。口では「世界を変える」とか言ってますが、本音はビジネスというゲームを楽しんでいるだけなんだと思います。経営者の多くは、実は自分の本音に気づいているんじゃないかな。もし自分の本音に気づいていない経営者がいるとしたら、そういう人のほうが危ない(笑)。単純にビジネスというゲームを楽しむ。それでいいんじゃないかと思います。その結果、世界をよくすることにつながりますから。それでは、娘さんが「入りたい」と思うような会社ってどんな会社なんでしょうか?

春田 人から尊敬されるような良い会社かな(笑)。会社のあり方としては、僕は軍隊的に、下は上の指示に従えば良い、という組織が嫌いなので、そんな運営はしたくないと思ってます。僕自身も命令されたくないし、人に細かく命令したくもない。また、今の日本の多くの企業って、会社は社員に甘え、社員は会社に甘えている。相互依存体質の組織になっているところが多いように思います。そんな組織も嫌ですね。一人一人がプロとしての自覚を持ち、自律的に動く自由な組織にしたいなって思います。

ーー確かにエクサウィザーズって自律的な組織ですよね。僕が仕事のオファーいただいたときは、条件は月に最低一度出社する、というものだけ。めちゃくちゃ緩い条件だけでしたから(笑)。働き方改革って世間では声高に叫ばれてますが、エクサではそんな言葉は一切出ませんが、当たり前に自由な環境ですよね。僕もそうですけど、エクサに勤めながら他の会社の役員をしたり顧問したりしている人がいっぱいいる。自分の会社を持っている人もいますね。

春田 自由に動くには、プロとしての自覚と責任が不可欠です。上司からの指示を待つだけの人は要りません。一方で、自律的に動くのなら組織は要らないかというとそんなことはない。一人でできることは限られています。大きいことをするには、チームで動くほうが効率がいい。

ーー春田さんて「Think Big」の人ですよね。ほかの経営者がビジネスチャンスだと喜んで飛びつくような話でも、大きな話じゃないと動こうとしない。

春田 せっかく自律的で優秀な人材が集まっているんですから、チームじゃないとできないような大きいことをしたいですね。それと今、AIがいろいろな業界に大きなイノベーションを起こそうとしています。AIがどれほどすごいイノベーションなのか、まだ全貌がつかめていませんが、もし本当に大きなイノベーションであるのならば、このタイミングで小さくまとまるのってもったいないって思うんです。

ーーAIでいろいろな業界をディスラプトしていくわけですね。

春田 いや、僕はあまりディスラプトって言葉が好きじゃないんです。現状を破壊して、いいものがその上に生まれて、結果としてマーケット自体が大きくなるのならいいですけど、結局破壊して終わりというイメージがある。付加価値を生み出して、幸せになる人が多くなる結果を生み出さないといけないと思うんです。

ーーなるほど。シリコンバレーの血気盛んな人たちとは、ちょっと違った考え方ですね。でもなんでもかんでもアメリカ流がいいとは限らない。というか最近僕も、日本は日本流のやり方があるんじゃないかって思います。ひょっとすると日本流のやり方のほうが優れていて、将来世界が日本のやり方を再び真似する日がくるんじゃないかなとも思います。ところで、DeNA時代と今のエクサとでは経営者としてのあり方に違いはありますか?

春田 そうですね。歳と経験を重ねた上での「今」なので。逆に青臭く、エクサでは、世の中のためになることをしたいと思うようになってます。大変ベタな言い方ですけど。

ーー確かにえらくベタな表現ですね。ベタ過ぎて、引いてしまうレベル(笑)。

春田 でも本当にそう思っているんです。引かれるのは分かってますけど(笑)。今までは経営者として、真正面からそういうことを口に出したことはなかったと思います。

ーー今までは、世の中のためになることをしていなかったのですか?

春田 そんなことはありません。製品、サービスを作って、その対価としてお金をもらう。製品、サービスに価値があるからこそ、対価をいただけるわけで、世の中に価値を提供していること自体、世の中のためになっているのだと思います。そこには1点の曇りもない。
でも今は、もっと直接的に世の中のためになること、まだ解決できていない問題を解決したい。例えば少子高齢化の問題。親の介護の問題はだれもが直面する問題です。仕事をする層の職業訓練の問題もあります。そういった課題って、AIで解決できるんじゃないか。われわれが、世の中のためになれるんじゃないか、って思っています。

ーーお金儲けを否定したわけじゃないですよね。

春田 そんなことは全然ありません。好きなことをするためには経済的自由が不可欠です。しっかりとお金は稼ぐべきです。しかも出来るだけ多く(笑)。お金がないと好きなことができない。稼いだお金の使い方が問われるのかなと思います。

ーーその好きなことというのが、世の中のためになる、というベタな話ですね(笑)。

春田 ベタですみません(笑)。でも本当にそう思うようになったんですよね。

ーー僕はこれまで数多くの経営者とお話してきましたが、成長し続ける人って、最後はみなそこに行き着くみたいですよ。成功したあとに覇気がなくなってしまう人と、一度成功したあとでも挑戦を続ける人の違いって、世の中にためになりたいという気持ちが芽生えるかどうか、みたいな気がしますね。「世の中を変えたい」と気負っていても、成功したら自分の資産を守ることしか考えない。それじゃあつまらないですものね。

編集後記

「社会を変える」というスローガンを掲げてはいけない、とわけではない。立派なスローガンを掲げてもいいと思う。でも自分の本音には気づいておいたほうがいいんじゃないかな。本音に気づかずに突っ走っているから、IPOして金持ちになれば、目標を失う。「何のためにがんばってたんだっけ」となる。

その点、春田さんは、自然体の人だ。本音の人だ。自然体の人はいい。うそがないから。

自分に正直に、ビジネスというゲームを楽しんできた。ゲームに勝利してきた。

ただ勝利できたのは、決して自分だけの力じゃない。周りの人たちの協力もあっただろうし、運やタイミングも味方してくれたのだろう。「僕は運がいい」というのが春田さんの口癖だが、その言葉の裏には、自分の力だけでここまでこれたのではないという謙虚さと感謝の気持ちがある。そしてそういう気持ちが積み重なって「世の中のためになりたい」というベタな表現になっているのだと思う。

ベタ過ぎて社是には向かない表現だけど、その裏には春田さんのビュアな気持ちが込められている。ベタだけど、いいと思う。ベタな表現こそが真実だと思う。

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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